ただ 良妻賢母になりたかっただけなのに・・・
幾度もの過去生で、私はいろいろな宗派の旅の僧をしていました。
群れることはなく、常にひとり・・・
誰にも相手にされず、寝るところもなければ食べるものもない
そんな旅をしていました。
時に 僧侶ということをもてはやされ、上げ膳据え膳で大切にされた そんな村もありました。
こちらの村で聞いた話を次の村に伝えます。
婚礼の中継ぎをすることもあれば、作物の出来具合を伝えることもありますし、はやり病について話すこともありました。
そうやって、何年もかけて村々を回り やっと自分の籍のある寺にわらじを脱ぐ・・・
そんな時、小坊主さんたちはみすぼらしい風体の乞食坊主を怪訝そうに眺めていますが、慌てて出てきた年配の僧たちは、丁寧に招き入れ風呂を勧め、数日過ごした後はまた 新たに縫い上げてあった墨染の衣を身に纏い 旅の僧となる・・・
そんな時代を幾度も過ごし、今世ひとりの女性として生きてきました。
なぜか 生きづらい・・・
一生懸命 生きているのに、なぜか 歯車が嚙み合わない
両親のもとにいるときもそうでしたし、結婚してからもそうでした。
理想的な親子関係ではありませんでしたから、結婚したら絶対に良妻賢母になるんだ!
そう こころに誓って生きていましたが、やっぱり どこか ほころびが出てしまう・・・
私の額に 僕のもの と刻んでおきたい と真面目な顔で言っていた夫の まさかの不実。
ぎくしゃくした夫婦関係が影響したのか、長男の暴力・・・
ある日 何度目かの長男との諍いで、私の脳裏には 刃物が浮かびました。
必死で その思いを抑え、その夜 次男と共に夜行バスで遠く離れた実家を目指しました。
それでも また家族の元へ帰ったのは、実家はもう 私の居場所にはならなかったから。
それなのに数年後、私はまた 家を出ました。
今度は 固い決意をと共に。
家族と暮らしていても、こんなに寂しいなら いっそひとりで暮らした方がいい
誰かを恨むより ひとりで生きていこう
そんな風に思ったからです。
ただ 良妻賢母になりたかっただけなのに・・・
ただ それだけだったのに、それさえも叶わず ひとりで家を出たのです。